名刺のデジタル化を調べ始めると、名刺管理アプリの話とデジタル名刺の話が混ざっていて、自社が何をすればいいのか分かりにくいと感じるかもしれません。
私はWeb制作会社で日々ページを作っている忍者ですが、名刺入れの中身を整理するのは苦手です。巻物の整理も同じくらい苦手です。
この記事では、「名刺のデジタル化」に含まれる2つの意味を最初に整理し、メリット・デメリット、紙のコスト、よく出る反発への答え、7つのステップ、個人情報の扱いまでを順にまとめます。
「名刺のデジタル化」には2つの意味がある
まず言葉の整理です。「名刺をデジタル化する」と言ったとき、方向が正反対の2つの話が混ざっています。

受け取った名刺の管理をデジタル化する(名刺管理)
1つ目は、相手からもらった紙の名刺を撮影やスキャンで読み取り、名前・会社名・連絡先を文字データにして保存する方法です。EightやSansanといった名刺管理サービスがこれにあたります。たとえばEightは、名刺を撮影するだけでデータ化され、名前・会社名・部署・役職で検索できる仕組みです。
主役は「もらった名刺」です。自分が渡す名刺は紙のままでも成り立ちます。
自分たちの名刺をデジタルで渡す(デジタル名刺)
2つ目は、自社の社員が相手に渡す名刺そのものをデジタルにする方法です。QRコードを印刷したカード、スマホをかざすと自己紹介ページが開くNFC名刺、アプリ上でのプロフィール交換などがあります。NFCは、カードとスマホを近づけるだけで通信できる仕組みで、交通系ICカードと同じ技術です。
主役は「渡す名刺」です。相手が受け取った情報をどう管理するかは、相手側の話になります。
| ①名刺管理のデジタル化 | ②デジタル名刺 | |
|---|---|---|
| 対象 | 受け取った名刺 | 自社が渡す名刺 |
| 主な手段 | 撮影・スキャンでデータ化 | QRコード・NFC名刺・アプリ |
| 解決したい困りごと | 名刺が探せない、担当者しか知らない | 刷り直しが多い、渡した後に見てもらえない |
| 必要なもの | アプリやサービスの契約 | カードと、かざした先のページ |
| 相手に必要なもの | 何もいらない | スマホ(アプリ不要の方式もある) |
どちらか一方を選ぶものではなく、「もらう側」と「渡す側」で別々に判断できます。後半は②を中心に進めます。
それぞれのメリット・デメリット
名刺管理のデジタル化(①)で得られること・失うこと
得られるのは、名刺を探す時間がなくなることと、担当者が辞めても取引先の情報が会社に残ることです。失うのは、取り込みの手間と、情報を会社として管理する責任です。
デジタル名刺(②)で得られること・失うこと
得られるのは、刷り直しが不要になること、相手のスマホに連絡先が直接入ること、サービス紹介や予約ページまで一緒に渡せることです。失うのは、紙を手渡す所作です。相手がかざす・読み取るという動作をしなければ何も渡っていない、という点は紙との大きな違いです。
| ①名刺管理のデジタル化 | ②デジタル名刺 | |
|---|---|---|
| メリット | 検索できる、担当者任せにならない、顧客管理の仕組みとつなぎやすい | 刷り直し不要、連絡先が相手のスマホに直接入る、ページの情報を後から更新できる |
| デメリット | 取り込みの手間、会社として管理する責任、月額費用がかかるものが多い | 相手の動作が必要、紙を渡す所作がなくなる、ページの持ち主と更新担当を決める必要がある |
| 向いている会社 | 受け取る名刺が多い、担当の入れ替わりが多い | 異動や肩書変更が多い、展示会や店舗で渡す機会が多い |
紙の名刺にかかっているコストを数えてみる
「名刺代なんて大した金額じゃない」とよく言われますが、紙の名刺の本当のコストは印刷代とは別のところにあります。
印刷代ではなく「刷り直しの回数」で見る
肩書が変わる、部署が変わる、電話番号や住所が変わる、ロゴが変わる、というたびに刷り直しが起きます。しかも刷り直しのとき、手元に残っている名刺はほとんど廃棄されます。100枚頼んで30枚しか使っていなければ、70枚分はそのまま捨てている計算です。

自社の数字を計算式で出す
誰かの平均値を当てはめるより、自社の実績から出した方が納得感があります。次の式で、ここ1年分を一度数えてみてください。
年間の名刺コスト =(1回の印刷代 × 年間の発注回数)+(発注・受け取り・配布にかかる社内の作業時間 × 時給換算)+(廃棄した枚数 × 1枚あたりの単価)
社員20名の会社で、年に数人の肩書変更と採用があれば、発注回数は思ったより多いはずです。デジタル名刺なら、ページの肩書を書き換えるだけで、カードはそのまま使い続けられます。
導入で変わること(営業・採用・展示会・店舗)
デジタル名刺は、使う場面によって効き方が違います。自社でどの場面が多いかを先に見ておくと、進め方の優先順位が決まります。
場面ごとの変化
| 場面 | 紙の名刺でよくある困りごと | デジタル名刺で変わること |
|---|---|---|
| 営業 | 名刺を渡しても、サイトまで見てもらえない | かざした先のページで事例・料金・予約まで案内できる。連絡先はワンタップで保存される |
| 採用 | 説明会で学生に渡した名刺が、その後つながらない | 採用ページやLINEへそのまま誘導できる。担当者の人柄を伝えるページが作れる |
| 展示会 | 大量に配って、翌週には誰が誰か分からない | その場で相手のスマホに連絡先が入る |
| 店舗 | スタッフ全員分の名刺を作るコストと刷り直しが負担 | 予約ページ・口コミページ・SNSをカード1枚で案内できる。スタッフの入れ替えはページの差し替えで済む(飲食店・店舗での活用方法) |
共通しているのは、名刺が「連絡先を伝える紙」から「次の行動につなぐ入り口」に変わることです。どのページに着地させるかが、カードそのものより大事になります。
よくある反発と、その答え
社内で提案すると、だいたい次の3つが出ます。
「年配の取引先に失礼では」
デジタル名刺は紙を禁止するものではありません。紙を渡す所作をそのまま残し、相手がスマホを出したときにだけ「こちらに連絡先が入ります」と添える運用が、いちばん無理がありません。
また、NFC名刺は相手にアプリを入れてもらう必要がない方式を選べます。iPhoneでは、iPhone XS・XS Max・XRで導入された「バックグラウンドタグ読み取り」という機能により、画面が点いた状態でカードを近づけるだけでページを開く通知が出ます。相手に操作の説明をほとんどしなくて済むことが、年配の方への配慮にもなります。
「紙と併用でいいのでは」
併用で問題ありません。むしろ最初から全面切り替えをすると、現場が混乱します。おすすめは「紙は今の在庫を使い切るまで、デジタルは今日から」という順番です。刷り直しの機会が来た部署から紙を減らしていくと、自然に移行できます。
「セキュリティが心配」
心配の中身を分けると答えやすくなります。
1つは「カードをなくしたら」という心配です。NFC名刺に入っているのは通常、ページのURLだけで、相手の情報は入っていません。
もう1つは「受け取った名刺のデータが漏れたら」という心配で、これは①の名刺管理の話です。会社としてデータベースにした時点で管理義務がかかるので、アクセスできる人の範囲と退職時の扱いを最初に決めておきます。

失敗しない進め方(7ステップ)
ここからは、②のデジタル名刺を会社として導入する手順です。
ステップ1 目的を決める
「名刺代を減らしたい」「展示会のあとのフォローをしたい」「採用で学生とつながりたい」のどれが一番か、1つに絞ります。目的で、選ぶ方式も着地ページも変わります。
ステップ2 対象部署を決める
最初から全社でやらず、目的に直結する部署を1つ選びます。営業が目的なら営業部、採用が目的なら人事、店舗なら1店舗です。5〜10名程度が、問題が見えやすく修正もしやすい規模です。
ステップ3 方式を選ぶ
主な方式は、QRコードを印刷した紙の名刺、NFC名刺、アプリでのプロフィール交換の3つです。QRコードは今の名刺にすぐ足せる反面、相手がカメラを起動する手間があります。NFCはかざすだけですが、カードの用意が要ります。アプリは相手に入れてもらう前提になります。
違いはNFC名刺の基本と名刺にQRコードを載せる方法で詳しく書いています。複数のサービスを並べて見たい方は、デジタル名刺の比較記事も参考にしてください。
ステップ4 URLとページの持ち主を決める
ここが一番見落とされます。かざした先のページは誰のものか、を最初に決めてください。
個人のアカウントに紐づく方式では、担当者が退職するとページが消えたり、相手が過去にもらった名刺のリンクが切れたりします。会社がURLとページを持つ方式なら、担当者が変わってもページを差し替えるだけで済みます。自社ドメインで運用できるかどうかも、ここで確認しておきます。ページの作り方はデジタル名刺の作り方にまとめています。
ステップ5 運用ルールを決める
決めておくことは4つです。ページに載せる項目(会社として必須の項目と、個人で書いてよい項目)、更新の担当と頻度、退職・異動時にページをどうするか、受け取った名刺データを誰が見られるか。文書は1枚で十分です。
ステップ6 試験導入
対象部署で1〜3か月使ってみて、「かざしたのに開かなかった」「説明に時間がかかった」「ページのどこが見られたか」を記録し、ページと説明の仕方を直します。カードそのものより、着地ページの直しが多くなるのが普通です。
ステップ7 全社展開
試験導入で直したページと運用ルールを他部署に展開します。「刷り直しが必要になったらデジタルに切り替える」と決めると、無理なく紙が減っていきます。

個人情報の扱いで気をつけること
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)では、名刺は一般の慣行として、本人が自分の個人情報を任意の簡便な形式で相手に提供するものと位置づけられています。気をつけるのは、受け取った後です。
共有した時点で「個人情報データベース等」になりうる
個人情報保護委員会のQ&A(Q1-37)では、一定の規則で整理された名刺について、従業者の私的な使用のみに用いられているのであれば企業の個人情報データベース等に該当しないと考えられる一方、企業の業務のために使用しているのであれば該当することになり得る、と説明されています。ガイドライン通則編にも、従業者が名刺の情報を業務用パソコンの表計算ソフトで入力・整理している場合が、該当する事例として挙げられています。
つまり、名刺管理サービスに取り込んで社内で検索できるようにした時点で、会社として安全管理措置を取る対象になります。誰がアクセスできるか、退職者のアカウントをいつ止めるか、を決めておくのはこのためです。
なお、同じQ&A(Q4-16)では、名刺交換で得た連絡先に自社の広告宣伝の冊子や電子メールを送ることは、取得の状況からみて利用目的が明らかな場合にあたるとされています。ただし電子メールは、特定電子メール法など他の法令も守る必要があります。
漏えいしたときの報告義務
個人データの漏えい等が起きた場合、本人の数が1,000人を超えるもの、不正の目的をもって行われたおそれがあるもの(盗難を含む)などは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務になっています。報告は、速報を発覚日から3〜5日以内、確報を30日以内(不正目的の場合は60日以内)に行います。名刺データを会社で持つなら、万一のときに誰が報告するかまで決めておきます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 名刺のデジタル化と電子化、データ化は違うものですか
ほぼ同じ意味ですが、「電子化」「データ化」は受け取った名刺を文字データにする①、「デジタル名刺」は自社が渡す②を指すことが多いです。
Q2. 相手がデジタル名刺を受け取れなかったらどうしますか
紙を併用している間は、紙を渡せば済みます。紙をなくした後は、QRコードを印刷した小さなカードを予備として持つか、その場でページのURLをメッセージで送る方法があります。
Q3. 相手のスマホに連絡先が保存される仕組みは何ですか
vCardという、連絡先をやりとりするための標準形式を使います。IETFがRFC 6350として定めている形式です。ページに「連絡先を保存」のボタンを置けば、相手はワンタップで登録できます。
Q4. 社員が退職したらページはどうなりますか
方式によります。個人のアカウントに紐づくサービスでは、本人が退会するとページが消えることがあります。会社がURLとページを持つ方式なら、後任に差し替えられます。
Q5. 名刺管理サービスを使えば、個人情報の管理は任せられますか
保管の安全はサービス側が担いますが、誰にアクセスさせるか、利用目的、退職者の扱い、漏えい時の報告は会社の責任として残ります。
あわせて読みたい記事: 展示会でのデジタル名刺、デジタル名刺のメリット・デメリット、電子名刺はどこに保存されるか
ミカタ名刺(MIKATA CARD)について
最後に、私たちが作っているNFC名刺を紹介します。

ミカタ名刺(MIKATA CARD)は、Web制作会社の株式会社THREE D PLUSが、券面のデザインも、かざした先のページも手がけるNFC名刺です。相手にアプリを入れてもらう必要はありません。かざした先のページには連絡先をワンタップで保存できるボタン(vCard)があります。URLは標準では弊社発行のものを使い、オプションで自社ドメインでの運用もできます。
「かざすだけで、味方がふえる。」が、このサービスのコピーです。詳しくはサービスページへ。
名刺のデジタル化は、道具を変える話に見えて、実は「相手に何を渡したいか」を決め直す話です。2つの意味を分けて、目的を1つに絞り、ページの持ち主を決める。この3つを押さえれば、大きく失敗することはありません。
私は今日も名刺入れの整理を後回しにして、ページを作っています。忍者も、手裏剣より先にページを磨く時代です。
出典
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」Q1-37 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q1-37/
- 個人情報保護委員会 同Q&A Q4-16 https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q4-16/
- 個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/leakAction/
- Apple Developer「Core NFCの新機能」(Tech Talks) https://developer.apple.com/jp/videos/play/tech-talks/702/
- IETF RFC 6350「vCard Format Specification」 https://www.rfc-editor.org/rfc/rfc6350
- Sansan株式会社「名刺アプリ Eight」 https://8card.net/